aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaです。音ゲーの背景映像(BGA)について論じたいと思います。なんか偉そうにすみませんが、自分の感想です。
音楽ゲームでは、曲に映像が付くことがよくある。例えば、beatmania IIDXではレーンの横に・maimaiでは背景として全面に、映像が表示される。もっとも、ゲームのプレイ中はノーツを捌くことに夢中になって、そこに目を向けられることは少ない。
しかし、これらの映像を付属物として流し見るのはもったいない。IIDXの「HADES」のようにストーリーが面白い映像はもちろん、「冥」のように美術作品として楽しめる映像もある。
今回のブログでは、私が敬愛し、IIDXに深いかかわりを持つ映像作家murAta Yuzi(村田裕次)氏の映像を取り上げる。
— murAta Yuzi / 村田 裕次 (@m_Yz) 2022年3月3日
村田裕次氏とは誰か?
村田裕次氏は、日本のモーショングラフィック・デザイナー。VJ。村田裕次は本名ではない。会社のウェブサイトで本名は確認できる。
バージョンがHAPPY SKYのときにIIDXを始める。はじめてIIDXに出会った時に流れていた曲が「yu_tokiwa.djw - murmur twins」だったことから、murを取った今の名前を作った。murが小文字だったことから、スライドさせてAが大文字にしたという(beatmania IIDX 20th Anniversary Party 「Ring」での発言)。
日本大学在学時に広告学研究会に所属し、映像制作・VJを始める。
「kors k - Insane Techniques」の映像は在学時のもの。「授業は行きつつも制作を進めていた」ものの、「疲れて寝てしまって結局追試を受ける羽目になった」という(kors k - Nasty techniquesの制作者コメントより)。
また、HARDCORE TANO*Cメンバーらと繋がったのもその時期らしく、2013年にはTANO*C TOUR のジングル映像を制作している。IIDXを介して知り合ったという。
今周囲にいる人はほとんどIIDX無かったら会うことも無かっただろうしわかりやすく言えば昨日みたくタノシーでジングルなんてやってなかっただろうと思う そういう奇跡を実現してしまうのってまさにInsane Techniques(狂気的な技術)だなと
— murAta Yuzi / 村田 裕次 (@m_Yz) 2016年6月5日
〈2013年の映像まとめ。音楽はHommarju〉
2014年に大学を卒業した後は、映像制作会社で勤める傍ら、フリーランスでも制作をする。
フリーランスとしては、音楽ゲーム・TANO*Cなどに提供を続けている。Adobeの作品サイト・Behanceではたびたび「おすすめ」として選出されるなど、氏のセンスは実績からも窺い知れる。
・IIDXに「DJ Noriken - #The_Relentless」/「MASAYOSHI IIMORI - BREAK OVER」等
・CHUNITHMに、「cubesato - My First Phone」/「n-buna feat.ヤギヌマカナ - その群青が愛しかったようだった」等
・maimaiに、「WAiKURO - AMAZING MIGHTYYYY!!!!」/「Halozy - 曖昧mind」など
・TANO*Cのジングル映像ほぼ全て(オススメは2014・2017)
・自主制作としては、「sign」/「かめりあ - ココロの質量」(前者は音楽含め村田氏が全ディテクションをしたという点で、後者は最も時間がかかった内の一つであるという点で重要であるという。どちらのテーマも「諦め」という点で共通。)
〈最推しの「かめりあ - ココロの質量」のプレビュー。音楽も最高。かめりあだけどBPMは速くない。かめりあ - yamabikoと同じジャンル=メロディックダブステップ。4:21に表示される実写素材は朝焼けであり「夏の夕暮れ」だったりする訳ではない。〉
Akari, inc.のメンバーとしては、「TBS NewsBird」のオープニングに、朝倉涼氏とともに携わる(朝倉氏も「Seventhgraphics」名義でIIDXに映像を多く提供している)。
flapper3 Inc.のメンバーとしては、「ウルトラマンZ」のオープニング、「マジカルミライ2021」のオープニングとテーマソングの演出映像、「モンストアニメ ノア編」のオープニングなどに携わる。
〈個人製作ではないが、0:53-0:54あたりは村田氏な気がする。〉
まずは村田氏の映像を見てみよう!
音ゲーサークルのブログ記事なので、「DJ Noriken - #The_Relentless」の映像を取り上げる。まず↓のリンクの映像をじっくり見てみよう。
村田氏本人によると、「DJ Noriken - #The_Relentless」は、初めて3DCGをがっつり使った試みであり、あとになって振り返っても「会心」の作品だという(beatmania IIDX 20th Anniversary Party 「Ring」での発言)。
スマートフォンに入り込んで、ネットワーク的な世界を行きかった後に現実世界に戻る…という構成だ。
村田氏の映像の素晴らさを一言で表すなら、「メリハリ」と「細かい作り込み」だろう。
第一に、構成の点での「メリハリ」・「細かい作り込み」は、音楽の変化に着目し、それを大胆に映像へと落とし込むことによって達成されている。
例えば、0:48・0:59・1:05などのEDMでよく使われる強烈なスネアのサウンドに合わせて、明転・暗転する構成は、メリハリを生み出し、見る者を飽きさせない。
2:06~07の音のテープストップ・エフェクトに合わせて表示される「I’m a Teapot」は、音ハメをしつつ、曲の題材であるインターネットに関するネタを回収しており秀逸だ。「418 I’m a Teapot」は、「404 Not Found」といったHTTPステータスコードの一種で、ティーポットにコーヒーを淹れさせようとして拒否された場合に返されるジョークのコードだ。
ちなみに、映像の最後に出てくるツイート画面の時刻(05:00 2011/9/25?)は、DJ Norikenと村田氏が初めて会ったクラブが終了した時刻であるという(beatmania IIDX 20th Anniversary Party 「Ring」での発言)。映像の細部に思われるところにも、意味付けがされているのだ。
動きの「メリハリ」は、物体の動きを急激にしている所に表現されている言えよう。専門用語を用いるなら、急激なイージングを用いているということだ。0:59~1:02・1:18・2:04~06・1:22などのカメラワークなどだ。
この快感を何と表現できようか。トグルスイッチをカチッと操作することで持つ感覚に似ているような気がする。もっとも、このような激しい動きを採用しているのは一部なので、動きが激しければ気持ちいいというのは個人差があるかもしれない。
第二に、「細かい作り込み」は、一枚絵オブジェクトの細かいところまで作り込む点に現れている。もっとも、これは多くのCGクリエイターが注意していることだと思われるが。0:25~0:36で大量に表示される2Dモーショングラフィックスは、1つ1つがかなり作り込まれている。
持論だが、映像では、細かいスケールまで作り込むことで、かえって壮大なスケールを表現することができる。まず、映像は2次元のディスプレイ上で表現されるものだ。そこでスケールを測るとき、3次元でしているように五感全体を使ったり、両目の視差を使ったりすることはできず、視覚だけに頼りつつ映像内で相対比較をおこなう必要がある。細かく作り込まれたオブジェクトは、そのような比較をする際のものさしとなる。そして、十分小さいものさしでこそ、スケールの大きい空間・物体を「確かに大きい」と評価できる。
動きの「細かい作り込み」は全体を通して現れているが、1:10~1:15あたりを見てみよう。画面の真ん中にある光球のようなものは勿論、その下にある平板上を行きかう光線や、そこに現れる明滅しながら現れ消えゆく一つ一つのオブジェクトが、単にそこにあるだけでなく、せわしくなく動いている。一つのシーンでも目を飽きさせないような工夫がなされているのだ。
後続の作家たちに影響を与えた
村田氏は5年ほど後の世代の映像作家たちに影響を与えた。今から紹介する作家はいずれも独自性に富んでおり、村田氏のエピゴーネンとしてくさすつもりではないのはご承知おき頂きたい。
例えば、「BlackY - FINALLY BLAZE」や「kors k – Tiempo Loco」の映像を制作した猫クロス氏は村田氏から影響を与えている。
村田さんの動画を見てるときのぼく「エモい!エモい!!!エモすぎる!!!!あ、ここ世界レベル!!!あーエモい!!!!」
— 猫クロス (@segnoan5) 2017年6月8日
村上さん「語彙力落ちすぎでしょ」
「BlackY - FINALLY BLAZE」の映像を取り上げると、上述した映像構成・動きの上での「メリハリ」は勿論、サンプリングボイスに伴って差しはさまれるテキストモーションは、村田氏から大きな影響を受けている。
また、「Silentroom - Implexrough」、「第69回NHK紅白歌合戦」のEXILEの映像演出、「PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System」のオープニング、Crazy Raccoonカップのオープニングなどに携わっているNate氏も影響を受けた人物のひとりだ。
コメントにもありましたが、今回の作品には所々、映像作家の村田さんへのリスペクトを含んでおります。
— Nate / ねいと (@nate_nate_co) 2016年6月2日
ですが、その中で上手く自分らしさが出るようにと、頑張ったつもりではいます。
村田さんは本当に素晴らしい映像作家さんです🙏
※今回の作品=「Yunosuke - Pathos」
結論
村田氏は、大学時代から音楽ゲームに関係する映像やVJに携わり、その独自な構成で以て、後の世代の映像作家にも影響を与えた。
前節で述べたように、プレイしている時は背景化してしまっている音楽ゲームの映像にも一定の相互関連性や歴史性があるというのは、なかなか興味深い話ではないだろうか。
最後に、Next Tales 2 Oath (IIDX 20th Anniv "Ring" Theme)に村田氏が携わった時のコメントを引用して締めくくろう。
このゲームに関わる裏方と呼ばれる方々、それも映像やデザイン等目に見える所を手がける方々に限らず、コードをバシバシ打ち込んでいる方々や更には制作進行管理等を行っているような方々も、皆さんプレイヤーの方々に楽しんで頂く事を願って、20年間このゲームを支えて来たのだと思いますし、今後もそうであろうと思います。
そういう方々が、ゲームで華やかな目に見える場所の奥に存在し、皆さんの事を想って尽力しているのだという事を、待ち椅子で暇な時とかに一瞬でも思い出して頂けるなら、これ以上の労いはございません