音ゲーの映像をじっくり見てみよう!pt.2 ~ HDLV編

aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaです。音ゲーの背景映像(BGA)について論じたいと思います。パート2です。「などが有名」っていう結構表現使ってますが、主観めっちゃ入ってます。

 

前回記事:「音ゲーの映像をじっくり見てみよう!~ murAta Yuzi編 - 京音メンバーの日記

 

音楽ゲームでは、曲に映像が付くことがよくある。例えば、beatmania IIDXではレーンの横に・maimaiでは背景として全面に、映像が表示される。もっとも、ゲームのプレイ中はノーツを捌くことに夢中になって、そこに目を向けられることは少ない。

 

しかし、これらの映像を付属物として流し見るのはもったいない。IIDXの「HADES」のようにストーリーが面白い映像はもちろん、「冥」のように美術作品として楽しめる映像もある。

 

今回のブログでは、BMSBGAから映像制作をはじめ、非常に多くの映像を、それも様々な音ゲーに提供しているHDLV(浪漫映像制作倶楽部/alo)氏を取り上げる。

 

※HDLV氏は、aloが自分の別名義であるとは明言していない。しかし、両者の作風が明らかに同じように見えるので、この記事では同一人物だと見なして記述を進める。

 

alo名義ではTAG - ChronosUSAO - Night skyMASAYOSHI IIMORI - Hella DeepBEMANI)など、
HDLV/HARDLOVE名義では、ETIA. - IKAROSBMS)、Juggernaut. - Xenovcipher(maimai)、sasakure.UK - 閃鋼のブリューナク (CHUNITHM)など、
浪漫映像制作倶楽部名義ではpapyrus - Papyrus削除 feat. void - Black Lairなど
を制作した。

 

 

HDLV氏とは誰か?

HDLVことKodai Endo(遠藤広大)氏は、アブストラクトアートやデジタルアートを起点に映像制作やデザインを行っているフリーランサー

hdlv.tv

 

姉のMinako Endo(MiRA)氏も活動的に音楽ゲームに映像を提供している。灼熱Beach Side BunnyのBGAなどが有名。姉弟は、Lucky Vacuum - MIRACLE MEETSの映像で合作している。

 

HDLV氏は学生時代の2003年前後に「tes」名義でBMSBGAの製作を始める。BOFをはじめとする多数のイベントに参加した。名義は、2005年前後に「ke」に、2006年前後に「HDLV / HARDLOVE」に改名した。~07くらいで過去の作品について回想している。

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〈「自分のターニングポイントになったBGA」らしい。複雑な図形や3Dで動画をつくる作風は今にも生きている。〉

 

2007年にIMAGICA Imageworksに就職し、「alo」名義でBEMANIに映像提供を始める。「IMAGICA Imageworks」には、P*light - STARLIGHT DANCEHALLなどで有名なTOHRU MiTSUHASHi(板垣聖一)も所属していた。

 

GFDM V6に提供する作品は、社内イラストレーターとの合作も多い。初期の作品では、TAG - Chronosなどが有名。

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〈HDLV氏の作風が、さわやかな曲調に落とし込まれて上手くマッチしている。〉

 

初提供は、teranoid vs. L.E.D.-G - THE DETONATORの映像。ちなみに、その他にもL.E.Dの曲を4つ映像したり、L.E.D.のアルバム「電人K」のジャケットも担当するなど、L.E.Dと繋がりが深い(のかもしれない)。

 

【IIDX】専用BGA・ムービー 担当数の多いデザイナー・VJランキング②【現行AC】わざわざ手作業で真面目に数える人②」によると、外注ではBEMANIに1番多く映像を提供している。

 

2009年の一時期に、「HDGY」名義で、ガチムチレスリングシリーズの音MADや合作の制作にも手を付けた。なお、他の映像制作者もレスリングMADに同様に手を出していたため、珍しいことではない。Lunatic Sounds - DataErr0rのBGA担当のPhotonskytoなど。

 

 

また、「浪漫映像制作倶楽部」名義では、少女の3Dモデルを作成・駆使している。2009年のpapyrus - Papyrusがこの名義での初作品だ。ただし、東方PVについては、3Dモデルを使用する場合もHDLV名義が多い。

 

もっとも、この名義で有名なのは、maimai、CHIUNITHM、cytusなど音ゲーに収録されている削除 feat. void - Black Lairだろう。少女とドラゴンが戦うストーリーが特徴的。

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なお、BEMANISEGAに提供し始めた後も、たまにBOFに参加している。その他、東方アレンジのPV、アルバムジャケット、ボカロPVなども多く制作した。

 

2012年には、「HDLV」名義でmaimaiへの提供も始める。maimaiの映像提供数も14作であり、そこそこ多い。

 

以上のように、HDLV氏の映像制作は多岐にわたるうえに多産だ。BEMANIのみならずBMS界隈といった音ゲー界隈を裏側から支えてきたといっても差し支えないだろう。

 

時代感に整理をつけるために、簡単な年表を作成した。(拡大推奨)以下の通り。正直漏れが沢山あるかもしれない。セル内も時系列順にするようにしたが自信はない。
★はオススメの作品。

 

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Remywikimaimai 攻略wikiHDLV氏のポートフォリオなどを参考に作成〉

 

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〈7分にわたる大作・Nhato - Forbidden Souls〉

 

BMSの最初期から活動していたこともあり、多くの映像制作者に影響を与えている。maimaiに最も多く映像を提供している鑓田(Alpha complex)は「心の師匠」と呼んでおり、実際、初期にはかなり影響を受けていた。

 

HDLV氏の映像を見てみよう

今回も音ゲーの映像を取り上げて評してみる。BMSの「ETIA. feat. Jenga - IKAROS」のBGAを扱う。HDLV名義の作品である。ETIA.氏によると、IcarusではなくIKAROSにしたのは、人工衛星の名にちなんだものだが、そう命名した理由は思い出せないという。

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サムネを見て貰えば分かる通り、中二心をくすぐる3Dモデルが使用されている。kors k - Super Rushの映像(alo名義)に覚えがある方は、同様な作風であることが分かると思う。

 

非常に複雑な立体や図形を組み合わせて動かすことで、精緻な世界観をつくりだすというのが、HDLV氏の基本的な作風である。前回記事でも同様なことを述べた気がするが、この作り込まれた3Dによってこそ、大きな世界観を表現できるのだ。

 

それ以外に特徴的なのはグリッチ表現である。グリッチ表現とは、画面がバグった感じを演出としてわざと映像に使うことである。ホラー表現としても使われるが、音ゲーの映像・モーショングラフィックスを作る者にとっては、オシャレ表現なのだ。映像制作者ごとによって、グリッチ表現は異なっていることがあるので、よく見てみるとよい。

 

なお、この映像で見られるグリッチ表現は、若干バリエーションがあるが、他の映像でも使わされている。いわばHDLV氏の「特製タレ」のようなものなのであろう。例えば、上で挙げたForbidden Soulsの映像でも使われている。

 

HDLV氏のグリッチは複雑に組まれており、映像ソフトのプラグイン(追加機能)を単に購入すればできるといった簡単なものではない。グリッチの動きが映像に躍動感をもたらすように工夫されているように見える。また、何種類ものの素材が使われることで、映像に繊細さを与えているのだ。

 

また、HDLV氏は、2005年から「映像のストーリーを考え始めてきた」と振り返っている。見てもらえればわかるように、上の映像にもストーリーが入れ込まれている。

 

概ねのストーリーは次のような感じだろう。映像の冒頭で、翼を持つロボが、光球体に向かっていたものの光線に撃墜されてしまう。その様子を、主人公のロボが遠目に目撃し現場へと駆けていく。到着した主人公に対し、撃墜された翼は自ら融合していく。翼を得た少年もまた飛び立ち、光球体へ向かう。光線をかわしながら、光球に向かって加速していく。辿り着いた少年は球体の持つ力を取り込み、さらなる進化を遂げる。

 

IKAROSの歌詞では、「叶わないと頭では分かっていても、夢へ向かう力があるならば、立ち向かえ。それこそが自分の存在証明だ」ということが歌われている(のだと思う)。映像でも、たとえ他者の失敗を目撃しても、翼を得た少年は立ち向かっている様子が描写されている。

結論

HDLV氏は学生時代からBMS界隈に関わり、就職後もBEMANISEGAに映像を多く提供することで、音ゲー界隈を裏で支え続けた。その細かい3DCGや図形を組み合わせる作風は、後進の(といっても今では熟練となっている)映像制作者にも影響を与えた。