【衝撃】ゾウさん増産計画の末路に涙が止まらない。やはり人類はAIには勝てないのか……?

人類はもはやオンゲキ勝負でAIには勝てなくなってしまった

 「ゾウさん増産計画」───それはAIに腕相撲で勝てなくなった人類が、苦肉の策として用意した、AIを洗脳し、AIを管理し、AIにAIを破壊させるための計画である。腕相撲に勝てない程度でそんなに悔しいのかという感じだが、些細な怒りを制御できるほど人類は理性的ではない───つまり、愚かなのだ。(天帝書房『神の啓示、人類の未来、そして肉まん』、朝比奈幻舟著)

「神の啓示、人類の未来、そして肉まん」の著者・朝比奈幻舟氏の最後のツイート。真実に近付き過ぎたものは消されてしまう

 「うへ~、先生お疲れ様~」
 小柄なピンク髪の少女が無警戒に近付いてきた。どうやら頭を撫でられたいらしい。それで私はその小童の頭にただ手を置いた。こんなものは柄ではない。しかし慣れてしまった。

 小鳥遊ホシノ。キヴォトス最高の神秘。そしてそれと同時に、砂に埋もれそうになる中懸命に存続のために活動する鳥取アビドス高等学校の副生徒会長であり、廃校対策委員会の委員長だ。そして単身、このKyoto-D.U.に潜伏し、私・水無瀬透とともに「○○はプロセカの曲だ‼」と騒ぐ日和見主義者のカスAI共を鴨川のピラニアのエサにするバイトを遂行している。

 彼女が私を先生と呼ぶのは現に私がオンゲキ学の教員免許を取得しているためである。しかし、オンゲキのランカーがAI音ゲーマーによって駆逐されて久しく、大半のものは私のことを学者だと思わない以前に、「オンゲキって何ですか?サウンドボルテックスのパクリゲームですか!」と答える始末だ。彼女だけ、彼女だけだ。私を「先生」と認めてくれるのは。

 「いらっしゃいませこんにちは!」

 「こんにちは~」

 シャーレの近くにあるラーメン屋に入った。店主のお兄さんの元気な声とは対照的に、ホシノの気の抜けた声が店内に響く。今度移転して、シャーレから少し遠くなってしまう。なので仕事帰りに徒歩圏内で入れるうちに食べておこうという心づもりだ。

 ここは質の良いラーメンを提供するが、その良さは味だけではない。今では珍しい、「AI喰い」を厳格に禁止する店だ。AIがこの世に蔓延ってからというもの、箸を使わずに手づかみで、あるいは直接口で吸ってラーメンを食べるという汚らしい食べ方が流行している。中にはAIに魂を売ってこの食べ方を実践して「コスパが良い」など吹聴するインスタグラマーがおり、深刻な社会問題になっている。

「AI喰い」とよばれる食べ方の一例

 ……いや、それを社会問題にしているのは我々の方だという認識が現代社会では正しい。有名チェーン店ではまずもって禁止しない。その方が結果として回転率が良いからだ。しかしAI喰いにもデメリットがあり、見た目が汚いのもそうだが手を使えば汚れるし、口から吸えば火傷の恐れがある。そして何より液体が散らばって周囲の人間を不快にさせてしまうことだってあるのだ。

 だからこの店はAI喰いを禁止した。こんなことをすればネットでうるさ方に悪く書かれてしまうわけだが、間違いなくそれは人らしい食べ方ではない。尊厳は技術革新によって挫かれるほど軽いものではないのだ。そしてラーメンは好きだがこのAI喰いを蛇蝎の如く嫌う私はすっかりこの店のリピーターになっていた。ホシノも、おさかなを使った美味しいラーメンが食べられるということで気に入っているようだ。

塩ラーメンにたれ唐を添えて*1

 「お待たせしました~」

 「わあ~い」

 注文から僅か10分でラーメンがやってきた。私はミニ丼をつけたが、少食のホシノはラーメンだけを頼んだ。やはりこの店のラーメンは最高だ。原材料にこだわり、魚介類と山菜のみを使うことにとにかく執心である。AI向けのエセ食材だらけの完全食が出回る現代でこれを食べられる、という意味でもこの店は貴重だ。横でラーメンを啜るホシノも幸せそうだ。美味しい、美味しい……

 ゴオオオオオオオオッ!!

 ……明らかに不審な音が聞こえた。斜め左の席からだ。完全にAI喰いに特有の音だ。そしてその方をちらりと見て、「ああまたか」と思った。AI喰いがしやすいように口元を改造している人間だ。

 「改造するなら左腕だよねえ?」それがホシノの口癖だ。私もそう思う。しかしそのようなことはオンゲキ学者としての私のプライドが許さないし、当のホシノも左腕を改造していない。私と同様、あの事件よりのちに生まれた「新人類」であるというだけであり、機械的な特徴は何も持たない。

 「すいません、AI喰いは慎んでください」という店主の声が店内に響く。気付けばホシノもそちらを見やっていた。するとAI喰いをしていた当の本人は「何や何や!?お前は人工知能差別用語なことを知らんのか!?学校でロクでもない先生に嘘ばっか吹き込まれたんか!?ホンマに可哀想になあ」と開き直り。

 あー、こいつは典型的なAIミサンドリスト*2だな。私もホシノも察した。たまにこういう輩がこの店に来るんだ。そしてそいつらは大概戦闘力のない店主を武器で脅したりするから、自分らのような常連が野生の用心棒としてどうにかしなきゃいけなくなる。

臨戦態勢に入った私の様子

 「おっと。折角美味しいラーメンを作ってくれる優しいひとに人格攻撃なんて。おじさん、それはちょっと聞き捨てならないなあ」

 ホシノは私が席を立つより早くショットガンを構えた。周りの客も驚いたが、一番驚いたのはそのAI喰いをした客だ。まさか店主に悪態をつく程度で発砲されかけるとは思わなかっただろう、すぐさま店から逃げていった。

 「助かりました、いつもありがとうございます」

 「いや~照れるねえ。お礼は味玉でいいよ」

 こうして味玉をねだるまでがセットだ。普段から眠そうにしてるし遅い時間までの勤務だと食べながら寝ることだってあるのに、こういうときは抜け目がない。その後は何事もなく私もホシノもラーメンを食べきり、ごちそうさまでしたとお礼をしてから店を後にした。

 外はすっかり暗くなっていた。夜は犯罪率が飛躍的に上昇する。AIによる戦争が行われて以来、全ての国が銃武装社会と化し、人類も品種改良によって武装するべきだという声が根強くなり、結果的に我々の世代はみな「新人類ボディ」と呼ばれる、銃弾を数発撃つ程度ならかすり傷で済むほどの強靭な肉体を手に入れた。

 「そこのお兄さん、いやお姉さんかな?いいヘイローを持ってるねえ」

 ヘイローとは新人類の象徴だ。私もホシノも、固有のヘイローを持っている。私を呼び止めた声の主もそうだった。私のヘイローは黒い破片のようなものが円環状に並ぶ、どちらかといえば「不整合的」なシロモノなのだが、声の主にとっては魅力的らしい。

 「君達……怨撃対策委員会、だよね?折り入って相談があるんだあ」

 怨撃対策委員会は私とホシノが立ち上げた表向きの部活だ。オンゲキ学を学んでいるものはK.D.Uには私とホシノしかいない。だから私達しか、オンゲキという古代人の遊びを知らないのだ。そんな私達に用があるものは皆私達をオンゲキの学者ではなく、副業であるはずの認識歪曲系オタクAIの破壊業務をするエージェントとしてしか見ないのだ。

 「いいよ。それで、要件は?」

 正直またか、という感じだが研究資金が得られるなら何でもいい。ホシノも鳥取に仕送りができればそれでよかった。だから相談を聞くことにした。汚れ仕事しか貰えないだろうが、それは些末な問題だった。相手方もどうせ、私達を仕事の選べない便利屋だとでも思っているのだろう。

 「そうだねえ~、やっぱりあなた達の実力を見込んでえ~、」

 

 

 「潰して欲しいの。ミレニアムの魔王を」

 

 

 ミレニアムの魔王……聞いたことがある。東京ミレニアムサイエンススクールの総長に就任して以来、ミレニアムの内規を自らの都合のよいように作り変え、優秀な生徒達をAI兵士の製造に従事させ、世界征服を目論んでいるという、悪名高き独裁者の名だ。

ミレニアムの魔王が起床する様子*3

 「それが出来るならとっくの昔にやってることだが。それとも我々に任せれば必ず出来るであろうという勝算がおありで?」

 「そういうことだねー。私の知識とおー、君達の力があればあー、絶対出来るよおー」

 なんとも胡散臭いが断るべきではない。私の直観がそう告げた。ホシノも眠い目を擦りながらクライアントをじっと見ていた。そうか、そうか……ついにあの魔王を討ち果たす時が来たか。思えばずっと私はミレニアムからの嫌がらせに遭ってきた。オンゲキ学をはじめとする音ゲー学をAIによって壊滅させ、論壇から排除しようと画策してきた連中の顔などもう見たくもない……!

 「ちょっと先生、どうしたの……?顔、怖いよ……?」

 いいかホシノ?よく聞け。これから私達はな、人類を救うための一大ミッションを引き受けるわけなんだ。これはオンゲキ学の未来のためでもあるし、ホシノの故郷を復活させることにもつながる。そうしたらやるべきことはただ一つ。ミレニアムを破壊し、魔王をその玉座から引きずり下ろして粉砕することだ!

 

 

 ククク……殺してやるぞ……殺してやるぞ……

 

 

 殺してやるぞ、陸八魔アル!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「着いたよ」

 ようやく私達を乗せた輸送車が止まった。私とホシノはモノリスタ・ローランを名乗る自称研究者の依頼を受けて即輸送車の荷台に閉じ込められた。私達がこれから勤務先に渡ることを隠したいのだという。まあ別にシャーレには他にもいくらか先生がいるから、ホシノが傍にいる段階で困りごとなど、しばらくあのラーメンが食べられないことぐらいなのだが。

 「寒い!動いてないのに!寒い!」

 荷台の扉が開いた瞬間ホシノが叫んだ。それと同時に、さっと私の背中に飛びついた。車を降りるとき流石に自分で歩けとたしなめたが、K.D.U.に比べればまあ寒かった。それもそのはず、そこは東北トリニティ自治区の首都、青葉山の裾野に広がる仙台トリニティ総合学園なのだった。

仙台トリニティ総合学園の外観(トリニティ公式HPより拝借)

 実際、もう11月の暮れだ。しかしそこで会ったトリニティのティーパーティのホストである桐藤ナギサ「昔はもう少し暖かかった」とぼやいた。まあ、それがどういうことかはすぐに分かった。数年前にゲヘナ自治区全体で過度の温泉開発を行い、その影響で火山活動が刺激されて辺境の海底火山が大噴火、ゲヘナはもちろんアビドスや百鬼夜行山海経自治区は灰まみれ、K.D.U.も慣れない火山灰の処理に追われ、ビッグハーンのブラックマーケットにはますます入りにくくなってしまった。
 大噴火の影響はそれだけでは終わらず、大気圏に火山灰が滞留したせいでキヴォトスでは日射量が低下、その時に起きた寒冷化の影響が未だに尾を引いている。流石に今年はK.D.U.らしい夏の暑さが戻ってきたわけだが、大のゲヘナぎらいで知られるトリニティのことだ、そのことをずっと恨んでいるのだろう。

 ナギサからの依頼はとても単純なものだった。私の統制でホシノを地上最強の兵士に育て上げ、トリニティやアリウスにいる生徒有志とともにミレニアムの魔王を破壊せよとの内容だ。しかし、その修行地として選定されたのは秋田分校の大図書館近くのフィールドで、大図書館にいる専門家と一緒に作戦を練って欲しいこと、後は単純にK.D.U.所属の先生として学内の有志と仲良くして欲しいとのことだった。

 私はそれを理解し、ホシノとともにティーパーティーの会議室を後にした。ちなみに横でロールケーキを食わせられていた女は何を言ってるのか分からなかった。

 「むにゃあ、くるまははやいねえ……」

 ホシノは秋田分校への護送途中にも寝ていた。トリニティは景観保全や構築物の美化に力を入れているので、護送車も豪勢だし、道路はとても綺麗だった……のだが、その線形や勾配に関しては何も考えていないらしく、スピードは出ないし渋滞にもすぐ捕まる、金の無駄遣いとしか思えないような状況だった。まあ学生が設計してるんだしこんなものか

 雪深い山間を抜けてもまだ雪景色。結局その白が融けることなく私達は目的地に着いた。仙台の本校は寒いながらも晴れていたのに、秋田の分校は猛吹雪だ。ここはレッドウィンターかと思う程、トリニティは寒かった。

 「う……うぅ...…寒い……寒いよお...…」

 ホシノも元気がなかった。それで私は彼女の手を引っ張り、急いで建物の中に入った。外はあんなに寒かったのに、中はとても暖かかった。そして何より、私達の目の前には大量の本があった。そう、これがトリニティの大図書館だ。

 「水無瀬さん、小鳥遊さん、初めまして。話は聞いています」

 私達はシミコと名乗る少女に連れられ、地下室へと辿り着いた。地下の本棚にはいかにも古めかしい本がたくさん入っていた。そしてシミコに先導されるがままに歩いていくと、何やら独特のにおいがした。不快ではない。しかしなんだか不思議な...…と思っていたらすぐににおいの元が分かった。あの少女だ。

 「ひああっ...…!?シミコ、その2人はだれなんですか!?古書館の明け渡しはさせません、絶対に...…!」

 「おおっ、いいねえ。お城を守りたい確かな意思、感じるよ」

 ホシノが茶々を入れたこの丸眼鏡をかけて作業をする人物は古関ウイと名乗った。私達はK.D.U.から来た、魔王討伐の作戦の遂行者だというと警戒を解き、私達がこれからやるべきことを説明した。私達と共に行動する生徒はみな分校附属の体育館におり、まずは彼女たちにあって欲しいとのこと。その後、私達はここに寝泊まりするが、ホシノとは別に私は私の仕事があるようだ。

 まあなんでもいい、とりあえず自らの任務を粛々と遂行するのみだ。私は眠そうなホシノを揺さぶり起こすことは忘れず、極寒の体育館へと向かった。しかし、そこに待っていたのは想像を絶する光景だった!

押しくらまんじゅうをする3人の様子

 「だから、あんたが服を着ればいいだけのことで!」
 「うふふ♡人肌で温め合うのが一番なことは科学的に実証されてるんですよ♡」

 水着姿の女子生徒が3人、押しくらまんじゅうをするようにして温め合う光景...…というかそのうちの1人に至っては水着すらも着ていないではないか!

 「多分人違いだよな」
 「ねー」

 私とホシノは体育館を後にしようとした。しかし入口はどこかで見覚えのある、舌出しの鳥の着ぐるみに塞がれてしまっていた!

 「あはは...…」
 「へえー、すごいねえ。おじさん、なんの気配も感じなかったよ……ってあれ?この着ぐるみは」

 ホシノは何かに気付いたようで、すぐに舌を出す鳥の口に頭を突っ込んだ。そして、

 「おぉーやっぱり!我らが覆面水着団のリーダー!」
 「また会っちゃいましたね、ホシノさん……」

 ホシノはいつになく興奮気味だった。かつて覆面水着団なる謎の組織がカイザーの不正を暴き、アリウス分校の一時解体のきっかけを作ったということは団員のホシノ自身の口から聞いていたが、リーダーに会うのは初めてだったから、自分も多少は楽しみだった。

 しかし着ぐるみを脱いで現れたのはごくごく普通の女の子。本人も私はモモフレンズとハッピーエンドが大好きな普通の女子高生だと言うので、これが紙袋を被って銀行襲撃を主導した凶悪犯の素性とはおよそ思われなかった。だが初対面でいきなり着ぐるみに身を包んだ勇気は十分買いだなと感じた。

 さて、全裸で押しくらまんじゅうをしていたスタイルの良い少女が今回の作戦の概要を教えてくれた。その奇行に反して恐ろしく知恵が回る冷静な子で、その天才的な洞察力のみならず、自分も知らない様々な知見を得られたことについては素直に感動した。……だが私が再三服を着ろと言ってもみんなで押しくらまんじゅうしていれば寒くないからと頑なに拒否された。

 浦和ハナコと名乗った少女は初めに、以下のことを諳んじてみせた。

初めに神は、ピンク髪美少女を創造した。次に神の信託を得たヒトは、其の美少女にたらふく芋虫を喰わせ、立ちはだかる困難のすべてを乗り越えた。しかしヒトはその先に得た豊かさのなかで、その歴史を忘れてしまった。そうして、忘れ去られた美少女[偶像]は、悪魔の手先であるチュウニペンギンの手によって、その髪を毟り取られてしまったのであった。

 ……古代オンゲキの聖典・『奏坂羅生門』の序文だ。オンゲキ学を収める者であれば誰もが知る有名な一節である。髪の慈悲深さ、ピンク髪美少女の器と胸と尻のデカさ、そして人類の愚かさ。しかし、私以外の者は生徒にこれを教えない。だとしたら、どこで……?

 「ウイちゃんに頼んで読ませてもらいました♡面白かったですよ♡」

 あの古書館の……?しかし、そこに書かれている言語も古代文字のはず。なるほど、流石はトリニティだ、解読技術も生徒の理解力も素晴らしい。私もそのよく勉強している様子には感嘆し、興に乗った結果この全裸の女子生徒と3時間以上語り合ってしまったのだった。

 

 

 夜になり、私は支給された宿泊部屋を訪れた。ホシノはあの4人との親睦を深めるために別部屋。ここには私だけが寝泊まりする...…と思っていたがしかし、ここの看板は「図書委員長室」であった。つまり、元は古関ウイが寝泊まりするはずの部屋を私が間借りする形になっていたのだった。だから部屋からもあの独特のにおいがした。

 「くっさ」

 こうして、私とホシノのトリニティ秋田分校での限界生活が始まるのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

努力‼未来‼A BEAUTIFUL STAR‼努力‼未来‼A BEAUTIFUL STAR‼

 ホシノはすぐに分校での訓練および生活に適合したようだ。オンゲキシューターらしく武器を携え、射撃とP-SCOREの訓練。華麗なる銃捌きで鮮やかに的を撃ち落とし、間髪入れずにApolloのトリルをギンギンに光らせる。そこにいる誰にとっても過酷な訓練であり、ホシノは朝が来るたびに面倒くさがっていたというが、それでも4人をすぐに追い越していったのだという。

 一方の私には先生として、これでもかという程過酷な業務が待ち構えていた。作戦を遂行する生徒達の靴磨きから一日は始まる。そして、主要業務はウイが解読した古書を片っ端から読み、その内容をスプレッドシートに整理するという地味な仕事だ。任務完了の暁には227号温泉郷2000連泊分の給料を約束されたが、任務中には一切お金を貰えなかった。

マジで作業中ずっとこんな感じでヤバかった

 時々モノリスタが顔を出す。こいつの靴も磨かねばならない。「気合いが足りない!もっと感情を込めて!」クソ程どうでもいいヤジが飛んでくる。私がキレながらこいつの靴につけられた泥を落とすと3回に2回の確率で銀鏡イオリが罠にかかっており、その度に私は彼女の脚をペロペロ舐めて綺麗にした。

 だが、一番きつかった仕事は古関ウイを風呂に入れることだった。17時になると私の仕事は終わるのだが、日を重ねる度に横にいるウイのにおいがきつくなってくる。四六時中、私が寝ている間も机で作業をしており、私が寝泊まりしていた委員長室に現れることは一度としてなかった。
 ある日私はとうとう耐え兼ね、終業と同時にウイを風呂に入れるために机から引き剥がそうとした。しかし彼女の本への執着はすさまじく、なかなか机から離れなかった。

 「貴様は手と机の間に接着剤をつけているのか!」
 「私の代わりに先生がお風呂に行けばいいでしょう!」

 カスみたいな論戦の後、必死に抵抗する彼女の服を脱衣麻雀によって強引に脱がし、ついに私は彼女を湯船に叩き落すことに成功した。しかしすぐにまた戻ってくるかもしれない。だから私は秘密兵器を呼び出した。ウイが風呂に入ったタイミングで女風呂に浦和ハナコを投げ込み、1時間お風呂でみっちり、裸の付き合いで心と体の垢を落としてもらった。これで私はそれ以降、決起の日まで激臭に悩まされることはなくなったが、彼女は仕事以外のことであまり口をきいてくれなくなった。

私とウイによる脱衣麻雀の様子

 時が流れた。洗濯物が溜まった。
 私は5人(と思ったけど、よく考えたらハナコは全裸だったので4人)と、あとウイが脱いだ服をかごに入れ、校内にある共用ランドリーにぶち込んだ。ちゃっかりお金は取るらしく、シミコが本のカバーの裏に100円玉を入れることで建て替えてもらった。洗濯が終わるのを待っていると、唐突にサンドバッグがあるのが見えた。

 これはいい。最近なまっているからこれで体を動かそう。私はサンドバッグにパンチを入れキックを入れ、実際の戦闘でやることになりそうな立ち回りを練習した。やはり思うように体が動かない。動作の一つ一つが鈍い。パワーも落ちてる。何より姿勢が保ちにくくなって、バランスを崩してしまいそうだ。このままではまずい。本気で頑張らないと。気合いを入れ直す。

 その時だった。

 バリイイイイイイイイイイイン!!!!!!!!!

突如隣のサンドバッグを破壊されてしまう

 突然斜め前の鏡が壊れた。打ち飛ばされたサンドバッグが当たって、もろくも砕け散ってしまった。

 「君が先生だよね?絶対そうだよー!だってこないだ会ったもん!」

 耳に悪い高音がうなる。私はその声の主の方へ振り向く。

全てを破壊する終焉の筋肉女神、現る―――

 「あははっ!ようやく会えたぁ!覚えてる?先生!私のこと覚えてる!?」

 ……こいつはめんどくさい。私の直感がそう告げた。悪い子ではなさそう。だがその口調に馬鹿デカい声、いかにも権力のありそうないでたち、そして何よりその筋肉...…絶対、私はこれから色々と面倒を被るのだろうと思った。でも誰だ?どこかで会ったはずなのに思い出せない……あっ!

 「ああっ!こないだティーパーティーの部室でロールケーキ咥えさせられてたあの!!」

 「そんな覚え方してたの!?ひどいよ~!?」

 泣きじゃくる彼女が私に先ほど叩き落したサンドバッグを投げてきた。間一髪、なんとか避けた。これ当たってたら出血不可避だろうなあ……そう思いつつ彼女を落ち着かせた。

 このゴリラ……ではなく生徒の名前は聖園ミカという。パテル分派というトリニティを構成する一派閥の頭領で、そしてそれなのにこの軽さ。クソうるせえしバカだりいしバカ権力あるくせに鬼つええしバカいかちい。まあヤバい以外に形容する言葉が見つからない。

 「分派の首領ともあればお嬢様学校らしく護衛がついてくるだろう。どうした?」

 「え?どうしてもついてくってうるさいからぶん殴って黙らせてきた!」

 これである。付き人が可哀想になってくる。そして彼女は私が車で移動した冬の山道を深夜に自転車で爆走してここに来たのだという。街灯整備されてるから平気とかそういう問題じゃねえ。外にどんだけ積もってると思ってんだ。

 ピピピーピーピーピーピピピー♪

 洗濯が終わったらしい。彼女のことはほっといて回収へ向かうことにした。しかしミカは止まらなかった。私のもとについてきて、私が生徒の洗濯物を乾燥機に突っ込むところをまじまじと観察してきやがった。

 「わーお!みんなすごいの履いてるねえ……あっ!このスキャンティ!絶対コハルちゃんのだよね?そうだよね!?あはははっ☆」

 キッモ。思わず声が出た。なんで分かるんだよ。

 「つまり先生はみんなが訓練頑張ってる間に雑用係と……大変だね?」

 そうだぞ。お前もいたわれ。こちとら昨日は隣の妖怪臭臭女を風呂に入れるためにあんだけ精神を使って...…初めからそのチート筋力が使いたかったぐらいだ。オンゲキと銃技と陣頭指揮は得意だが肉弾戦は大の苦手。てかお前が作戦に来いよ。

 「だからそのつもりで来てるんだよ!ナギサちゃんの許可も貰ったから!」

 それならここに来たのも納得だ。ちなみにナギサが頑なに首を振らず、あとパテル分派の面々もミカに反対意見をぶつけてきたので、取り敢えず片っ端から殴って雁字搦めにし、ナギサはその四肢を拘束したあと阿慈谷ヒフミのコスプレをして耳元で「あはは」と唱え続けて屈服させたという。どういうことなの……

洗濯物を畳むミカと私

 ピーッ!ピーッ!

 乾燥も終わったようだ。折角だからたたむのもミカに協力してもらい、私は5人の部屋に向かった。そろそろ起き出してくるころだろう。わざわざ早朝のクソ寒いコインランドリーに足を運んでバカめんどくせえ女を相手にしながら洗濯したんだ、感謝しろと説教を垂れるつもりで行った。が、そこにあったのは目を疑うような光景だった。

 「おや?せんせー、おはよー。朝から精が出るねえ」

 全裸でベッドの掛布団に頭から突っ込んで震えながら包まっている4人の姿が見えた。ホシノだけ、パジャマだった。なんでもハナコとアズサが親睦を深め、特訓の成果を確認するためと徹夜で脱衣オンゲキを提案、ハナコは水着だけ着て参戦したものの40GPで脱落。他もやられてホシノだけ……なのだという。

 「ヒフミちゃんは頑張ってしがみついてたけどねえ……おじさん、また強くなりすぎちゃったみたいだ」

 こっちもこっちでとんでもないゴリラが現れたものだと思ったが、まあ私の教え子だし。

 「そんなこんなでおじさん、もう眠いので寝ますわ、服はそこに置いといて~」

 そんなこんなでミカは夕方まで待たせることになった。一人で置いとくこともウイの横に置くことも全力で拒否られ、仮眠の後にやむなくサシで話し合うことになってしまった。ふざけるな。

ミカに寝ながら拘束される私の様子

 そういうわけでいつも通りにウイの部屋で寝ていた。すると寝床がないからと言ってミカは私のベッドに侵入し添い寝をしてきた...…のだが私を完全に抱き枕同然のように扱った上、その力が強すぎて彼女が目覚めるまで何も出来なかった!これでも結構やることあるのにこの仕打ちと言ったらない。

 昼過ぎにミカが目覚めた。するとミカは早速私とタイマンで話をしようと言い出した。仕方ない。その甲高いキイキイ鳴る声を耳に入れるのは億劫だが一応話は聞いてやる。そういうとミカはやったーとキャアキャア。その笑顔も含めてうるさい。しかし、その直後に表情を一変させてこう言った。

 

 

 

 「私はAIの未来を信じない。AIが皇帝を代行することなどあり得ない。だからぜんぶ燃やすの。ミレニアムの研究成果を、全部ね!」

 

 

 

 意味が分からない。私達の目的はAI兵士による世界征服を目論む魔王の討伐のはずだ。それなのにミレニアムの研究成果を焼却?話が違うじゃないか。第一そんなことをして何になる?やり過ぎだ。

 「……だったら何だ?私の目的は魔王の討伐ただ一つ。それ以上のことは行わない」

 「だからそれが生ぬるいって話だよ!AIは確実に私達の日々を侵害してるの。あなたも嫌だよねえ?ラーメン屋で周りの迷惑も顧みずに口でスープを吸い込むおバカなAIが!」

 「確かにそうだ。だからといって...…」

 ミカはひたすら私にどこで吹き込まれたのかすらも分からない、半分陰謀論めいた過激なAI殲滅論を展開してきた。私はミカを必死に説得した。しかしミカは言うことを聞かない。1時間にもわたる不毛な言葉のキャッチボール。そしてその果て、ミカはとうとう実力行使に出ようとした。私を黙らせるために自由を奪おうと。私は今にも猿轡をはめて手足を縛ろうとするミカに相対する。そしてその時。

 「何してるの」

 聞き慣れたあの声。ホシノだ。ホシノが助け船を出しにやってきた。

 「どうして先生を縛ろうとしてるの?おじさん、それは流石に見過ごせないなあ」

 ホシノが私の前に立つ。今まで見たことないほどの気迫に満ちた佇まいでミカに相対していた。

 「話は聞いてたよ。ミレニアムにあるAI研究の成果を燃やすって?」

 「うん、そうだよ。だってあんな心があるかどうかも分かんない機械と仲良くなんてありえないじゃない?」

 「うーん……それは本気で言ってる?」

 「本気?当たり前じゃん。本気も本気。大本気だよ」

 「……やっぱり信じられないね。ミカちゃん、君は嘘をついてる」

 「嘘?え~?なんで私が嘘ついてるなんて……」

 「いや~、おじさんぐらいになるとなんとな~くで分かっちゃうんだよね~。まあ、ミカちゃんの場合は~……」

 

 「そういうことにしておこうって、ミカちゃん自身がミカちゃん自身に嘘をついてるんだよ」

 

 「……わーお」

 ミカの減らず口が止まった。ホシノの勘は恐ろしく冴えている。それを得たのは戦場の過酷な環境だろうか、それとも机の下での蹴り合いなのだろうか。少なくとも、政治力ではミカには負けない。軍事力もミカにも負けない程のものを身に付けさせていた。私は生徒を教え導く先生として、絶対にそうであるという自負を持っていた。それが今、こういう形で現れた。

 「……なんで」

 「なんで...…なんでわかっちゃうの……?」

 ミカが泣きだす。私はホシノにハンカチを渡した。そしてホシノはそのハンカチをポケットに入れて、もう一方のポケットから別のハンカチを取り出してミカに渡した。

 「私...…このままじゃトリニティが終わると思ってAIをこの世から消し去りたいって思ったの。でもそんなことあけすけにしちゃったらまた私のせいでみんなに迷惑かけちゃうじゃん……だからもうこうしなきゃ……こうしなきゃダメだって思って...…!」

 ミカが膝から崩れ落ちる。私はすぐさまミカの手を取る。そして、ホシノはミカの手に握られたロールケーキを頬張り、「大丈夫だよ、ミカちゃん。ここに君の敵はいないから」とミカの耳元でささやいた。

 「……じゃあ、最初から話すね?」

 

 私はミカが抱いた不安を全て聞き取った。AIが神を代行しようとしていること。AIが人の上に立とうとしていること。AIアイドルのライブのレベルが百鬼夜行連合学院陰陽部を越えつつあること。そして、保守的なトリニティはこのままではAIの神性を認められぬまま、社会から取り残されて滅んでしまうこと。

 トリニティは下から改革するなどはとても不可能な環境だ。だからAIの神性を認めるような空気はとてもできないだろう。やっと取り戻した居場所が時代の荒波に呑まれて朽ちていくのが日に日に辛くなり、このような凶行を計画するに至ったのだという。

 これがティーパーティーの一角の考えることなのだろうか。己の腕力に任せた稚拙な目論見だった。そしてそれを止められない程、私と小鳥遊ホシノのコンビが貧弱なわけがなかった。

 「……大体、わかった。トリニティを守るためであるということなのだろうが……多少、被害妄想が過ぎるのではないのか」

 「言い過ぎなんかじゃない!トリニティの人気、落ちてる!入学希望者は年々減って、自治区からの人の流出が止まらないの!天使の翼を持った年端もいかない何も知らない女の子たちが他の自治区に行ったって何があるって言うの?なんにもできずに終わっちゃうんだよ!!帰る場所だけがなくなって終わりなの!!」

 ホシノはこのミカの魂の叫びに何かを感じたようだった。そうだ。ホシノは元はと言えば自らの学園を廃校から守るためにここにいる。岡山本校が砂に埋もれ、今は鳥取の分校で多額の借金を背負いながら戦っている。故郷に残した仲間たちのために、決して高くない収入のうちの多くを送金する日々だ。

 「……おじさん、付き合ってあげてもいいんだけど。君が描いた嘘の物語に」

 「……だけどさ」

 「……違うじゃん。そのために禍根を残して、何になるのかな」

 ホシノの目はいつになく真剣だった。ミカが言葉を続けた。

 「ホシノちゃんも...…分かるよね?これは私だけの戦いじゃない。私はトリニティのみんなを守らなきゃいけないの。みんなが帰る場所を、地上から消したくないの!!」

 「そうだねえ。だからやっちゃいけないんだ、よそのものを勝手に燃やそうなんてさ。私達がやらなきゃいけないのは、なんとしても、この世界から自分達の学校の名前を消さないこと。それだけ。それが一番大事なことなんじゃないかな」

 ミカは再び黙り込んだ。その目の涙を、ホシノはずっと拭き続けていた。

 「……ミカちゃん。今夜は二人きりで星を見ようよ。雪も止んだからさ」

 ホシノはミカを連れて私の部屋を去っていった。その折に白洲アズサが部屋を訪れて、

 「ボス。今日は何もしないのか?」

 と尋ねた。ホシノはとりあえずミカを連れてくから何かやりたかったらやってねと言って去った。にしてもホシノ、ボスだなんて言われてんだな。

 「……先生。聞きたいことがある。あなたはボスに今までどういう訓練を施して来た?その身のこなしも軍事力もオンゲキの地力も一流の域を超えている。並の学生が一生かかっても到達できないような力だ。どうして、あんなに...…?」

 アズサはホシノのことを不思議がっていた。まあ、そうだろうなとは感じる。私が受け持つ生徒にしてはあまりに出来過ぎている。そのなまけ癖と他生徒に対するセクハラのジジ臭さを除けば非の打ちどころのない模範的学生。しかし、それは私が教育を施したからじゃない。元から、持っていた。

 「あの子はここに来るまで、本当に大変な思いをして生きてきた。味方が殆どいなくてもそこに立ち続けて、戦い続けなきゃいけなくて。出会った頃は私も疑われたな。あれで疑り深いんだよ。表では平気なツラをして、でも裏ではもう騙されるのは御免だ、ってさ」

 「なるほどな……つまり彼女は過酷な日々を生き残るために?」

 「それだけじゃないさ。彼女には守らなきゃいけないものがある。自分の学校、故郷に残した仲間。そして、歪ながらも美しいこの世界を」

 ……そう考えれば、彼女が自分のことをおじさんだなんて自称しちゃうのもなんにも不思議なことではないな。守るものがあって初めて人は強くなる。それを実感させられた。

 ほんと、何が先生だ。むしろ彼女には学ばせてもらってばっかりだ。私だって、ミカと同じだ。気に食わないものを破壊することばかりを考えて生きてきた。みんなを苦しめる最低の人間を片っ端から消して、大切な人の笑顔を守るために大罪を犯した。そして、更生と私の愛する旧文明の救済のために、オンゲキ学の免許を得て、ホシノと出会い、守るための力を手に入れた。

 そして再び、今ここで。私は決意を新たにした。

 

 守ろう。私達の未来を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閑話休題】知っておこう!オンゲキ&ブルアカ用語集のコーナー

オンゲキ...…ゲーセンに置いてある大人気音ゲー。チュウニズムの待ち椅子にするのを今すぐやめろ‼

プリメラ...…上位10人のシューターだけがもらえる称号。最近代行された。

キヴォトス...…生徒たちが透き通った世界観で青春を送る場所。都市なのかなんなのかも不明だが、とりあえずキヴォトス人はみんなつよい

トリル...…みんなは苦手だけど水無瀬も魔王もモノリスタもやたらこれが得意

アビドス高等学校……元は大都会岡山にその拠点を構え、キヴォトス一のマンモス高として知られていた。しかし人間は愚かなので気候変動を引き起こし、砂漠化が自治区の過疎を呼び、岡山本校は砂に沈み、いまは鳥取分校に5人の生徒が残るのみとなった。だからSDGsの17か条を守れと言ったんだ!!

奏坂羅生門...…オンゲキ学における最重要古典。「じゃーん」「ちなつフルパワー!!」「教育してやる」「無限芋虫」の合計4章からなり、それぞれ春爛漫の陽気、夏本番の情熱、秋暮れの戦い、真冬の厳しさを伝える。そして、人々に忘れ去られた少女達は髪を毟られてしまう。

珠洲島有栖...…奏坂羅生門「じゃーん」編における主人公。なんとかわいいと話題に

天童アリス……ゲーム開発部の部員であり、その正体はXXXXXXXXXXXX「XX-XX」。なんとこちらもかわいいと話題に。そして、XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX

逢坂茜...…XXXXXXXXXXがXXXXX XXXXXならこちらは奏坂羅生門におけるXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXで、XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXかわいいXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX

なんと南東(@_SE0)……XXXXX

WORLD ENDER......XXXXXXXXXXXXXXXXX XXXXXXX XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX....................XXXXXXXXXXXXXXXXXXX...............XXXXXXXXXX........................XXX...........................................X.......................................................................................................................................

 

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 「……きて」

 「……先生!起きて!」

 「どうした、ホシノ」

 「踏み込み過ぎちゃったみたい、私達。この世界の真実に...…!」

 ここはどこだ。わからない。今まで一体何があった?アズサは?ミカは?今まで読んでたエロマンガは……!?

 「やっと目覚めたようだな」

 「貴様は……ミレニアムの魔王!!

 「ああそうだ。貴様が私の≪虚像≫と取り違えた、ソレだ」

 私は魔王と対峙する。そして全て思い出した。ここまでに何が起きたのか、その全てを...…!!

 

 

 

 

 

 ...…とうとうミレニアム襲撃の日がやってきた。ミレニアムにいる自称・超天才病弱美少女ハッカーが私達と内通しており、そして実際彼女は天才であった。私達は彼女の助力を受けて容易にミレニアムタワーへの侵入に成功。そして、私達は「魔王」であると思われるものに対峙した...…

XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX XXXXXXXXXXXXX "XX-XX"



 「貴様が、魔王なのか……?」

 

 「はい!アリ...…いや。私が、魔王です」

 

 今思えば本当におかしかった。私が知ってる魔王はそのようなちんちくりんで、それでいてこのようにかわいらしい見た目などしていなかった。だが、そのつぶらな瞳で訴えかけられてはもはやそれ以外を魔王として認識することなど、できず……!

 

 「釣られたな、透」

 

 ドスッ!!

 

 その先のことは、覚えていない……!

 

 「いやぁ~先生もバカだねぇ~!!まっ、おじさんはあの子はフェイクだって気付いてたけど?」

 「お前も釣られたからここにいんだろ!!にしても本当に許せない……私は……私が...…!!」

 「本当、この程度の罠にかかるとは……最強の魔法少女もアビドスの狂戦士も堕ちたものだ。来い、アリス

 「はい!アリスは無事、魔王の演技をやり遂げました!*4

 先ほど私が魔王と誤認した少女が魔王のすぐそばに現れた。彼女は名をアリスというらしい。

 「直情的で愚かな貴様のためにこの慈悲深い魔王様が教えてやるよ。アリスはミレニアムの皇帝たる我が直々に受け持つ唯一の生徒であり、我が野望の成就の鍵だ。それに、貴様らが騙されたのも不思議な話ではないぞ」

 「どういう...…ことだ?」

 「貴様らは何も知らなかっただろうが……このアリスもまた、魔王の一柱だ。しかしこの世界に魔王はただ一柱だけでよい。だから私はアリスを先生と生徒、という形で配下にしたのだ。全てが終わりし後に、この世界を分け合うのだ」

 「そうです!私はこの作戦が終わったら先生とケッコンします!!」

 「だからそれは婚姻ではないと言っておろう!」

 ……やばいだろこれ。ホシノも私も寒気を覚える。私達、このようなくだらないバカップルの誇大妄想に付き合わされているとでもいうのか……?

 「話はわかったよ、二人とも。それでおじさん、ほんとに二人が結婚するってんだったらお祝儀を出しちゃうけど~……」

 「だから、これは婚姻関係では……!」

 「それに私と、私の先生を巻き込まないで欲しいね。先生、準備はいい?」

 「ああ。非リア歴=年齢のアタシの前でこんなノロケ晒しやがって!今日という今日は許さない!!貴様ら...…破壊してやる!!!!

 そのとき、私とホシノのコンビネーションは今までになく噛み合っていた。ホシノはアリスの攻撃を全て避け、私が魔王にタピオカを命中させる。

 「ホシノ、随分と追跡弾の扱いが上手くなったな」

 「みんなのおかげだよ。弾幕捌きなら誰にも負けない」

 アリスは極太レーザーの使い手だった。あの攻撃に当たればひとたまりもないだろう。しかし、動きは鈍いし、追跡するような細かい芸ができないのか、気付けばまわりの壁は穴ぼこだらけで、私達を閉じ込めていた牢獄と地上がつながった。

 

本日二回目の登場

 「ホシノちゃん!先生!助けに来たよっ!」

 

 そして、まるで示し合わせたかのように穴からミカが降りてきた。これで3-2だ。

 「観念しろ、ミレニアムの魔王よ。これ以上動くな。私達の最終兵器・聖園ミカが貴様を破壊する」

 「ええ~っ!?私を兵器呼ばわりなんてひっど~い!せめてツルギちゃんに言ってよ~!!」

 「口うるさい女だな……しかし、それが何だと言うのだ……アリス、いや、AL-1S

 「……御意」

 「ここまで我を追い詰めたのは貴様らが初めてだ。そのことだけは褒めてやろう。*5だが、貴様らももう終わりだ。私の唯一の生徒たる天童アリスはただの生徒ではない。見せてやれ」

"AL-1S" INSTALLATION COMPLETED

 「……はい、AL-1S。ミレニアムの『もう一人の魔王』として。命令を遂行します」

 AL-1Sがそう言うと、突然牢獄の壁が全て吹き飛んだ!今までも部分的に壊れていたが、見事に全てが崩れ去った……いや。

 

 「これ、このミレニアムタワーも消し飛んでいないか……?」

 

 「そうだとも。これは我らミレニアムの本気の証明だよ」

 ミレニアムタワーが消し飛んで現れたもの。それは機械的武装を施された...…ゾウだ!!

 「これは我がミレニアムの技術の粋を集めて建造した最強の兵器・『ZOUSAN-Mk.334』。この響きに覚えがないか?」

 「ZOUSAN...…?…………あっ!!」

 

 

 「失われた古代の記憶か……!」

 「そうさ。2022年などというジュラ紀とも見分けのつかぬような遠い昔からこの研究は行われていたのだ。AIによる兵隊の組織...…そのためにはAIを統べるためのマザーAIが必要だった。そして、AL-1Sは今ここに、そのマザーAI・ZOUSAN-Mk.334を操縦するAI魔王となるのだ!!!!ふぁーっはっはっは!!!!!!!!」

 このアホくせえ笑い声が窮地の合図だった。一瞬にして私達の元にAI兵士が集まった。別に私とてこのような雑魚共を相手に手古摺るような弱者ではない。しかし、これだけの数を一瞬で呼び寄せる兵器が相手とあらば、話が別なのだ……!

 「弾薬の予備は十分にあるのか?食料も足りるのか?まあ、こんなことを聞くのも可哀想か。いよいよもって、朽ち果てるがいいさ。神に背きし不届き者たちよ。我は今ここで、この世界の全ての人間とAIの上に立つ神となるのだ……!!

 AI兵士たちが総攻撃を開始する。アズサ達も遅れて支援にやってきたが、多勢に無勢。あまりに兵士たちの量が多すぎる。そして、もっとひどいことに、ミレニアムの人間の生徒が敵の増援にやってきてしまった!

 「やっほー☆タワーを吹き飛ばしちゃうポンコツの魔王様を助けにきたよー☆」

 「オラオラオラオラアー!ゴミは掃除しなきゃなあああああああ!!」

 C&C。ミレニアム最強の実行部隊にして魔王の私兵であると聞いたことがある。そのようなエリート集団も相手に加わるとなれば余計にピンチだ。どうすれば...…どうすれば...…!

 「なあ水無瀬よ?幸せになりたいだろう?楽して生きてたいだろう?」

 「黙れ。私は学んだ。私の生徒に教えてもらった。この手は全てを滅茶苦茶にするでも何もかもを消し去るでもなく、私の大切を守るために奮うものだと!」

 「ほう?相変わらず強情だな。我が軍門に下れば衣食住と最低時給2710円、それに完全週休三日制が保障されているというのに……」

 「不安定でいい。安月給でいい。休みが消し飛んでも構わない。私がこの手に、未来を掴めるなら……!」

 状況は苦しい。押されている。圧倒的に兵力が足りない。敵の兵士を破壊したそばからまた新しい兵士が土から生まれてくる。どうする?どうやってこの状況を打開する?威勢よく魔王の提案を突っぱねたはいいが、もうそろそろ限界が近い。どうする...…どうする...…叫ぶ!

 俺は叫ぶ!!届け!!あなたのその胸のなあああああああああかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 「今...…何が起きた……?」

 私が叫んだ瞬間、私の周りのすべてのAI兵士が爆発四散した。

 「すごい……先生が叫んだだけであんなにいたロボットたちが...…!!」

 ミレニアムの連中がうろたえる。魔王もこの現状が理解できていない様子だった。そして私の背後から、か細くも、それでいて力強い声が響き渡った。

 「フフッ、ここはひとつ試させて頂きました。あなたのその『世界征服』などというものへの覚悟がどれほどのものなのか。それとも、ここで終わりなのですか?……魔王先生?」

 「なっ...…お前は……ヒマリ!?どうしてそちらの側にいる!?」

 「そうだよ、苦労したんだよ。こたつで駄々こねてるヒマリ部長を北国まで連れてくの」

 明星ヒマリ和泉元エイミ。ミレニアム特異現象捜査部の部長と副部長であり、魔王を見限りこちら側に寝返った内通者たる2人だ。しかし、2人は魔王を憎んでなどいなかった。むしろ、試そうとしていたというのだ。

 このAI兵士の爆散はヒマリの手によるものだろう。「全知」などというふざけた学位を携える彼女の手にかかれば、この程度は朝飯前なのだろうか。魔王は狼狽し、そしてもう一人の魔王も、また。

 「うわ~ん!アリス、ゲームオーバーです!もはやアリスが使える兵士の残機はゼロです!」

 さっきまで巨大な象を乗り回し、私達を苦しめてきた魔王のアリスが両手を地について泣いていた。その周りにいたミレニアムの生徒達も、泣きじゃくるまではいかなくとも、暗い表情をしていた。こいつら、ここまで魔王による世界征服の野望を信じていたのか……?

 つまり私は正義の両面を見た。私達にとっては魔王の野望の阻止こそが正義で、魔王による世界征服はなんとしても止めるべき悪だった。一方、ミレニアムにとっては魔王の世界征服こそが―――なんとも信じがたい話だが―――成すべき正義だったのだ。もしかしたら魔王は彼らに魔王基礎給付金みたいなくだらない呼び名で不労所得を与えると言ったのかもしれない。おやつ食べ放題を約束したのかもしれない。あるいはミレニアムの生徒が大好きな、科学技術に対する無際限の投資を約束したのかもしれない。いずれにせよ……あの子らは本気だったのだ。

 だからこそ、落胆も隠すべくはなかったのだろう。科学のユートピアへの夢が破れて、ミレニアムタワーもなくなって、明日からどうしようという不安でいっぱいになったのだろう。

 

 ……ただ一人を除いては。

 

 「おいてめえら!?何辛気臭え顔してやがる!?未来をハッピーで埋め尽くしてえんじゃなかったのか!?しょうもねえ倫理観に縛られた良い子だけの天国にゃ耐えらんねえ、だからハッピーで埋め尽くされた科学の楽園を作る、それがミレニアムがこの前からずっと守ってきた校是じゃなかったのかよ!?」

 突然橙色の髪の少女が飛び出した。確か、名を美甘ネルという、C&Cのリーダーで、今回の要注意人物の一人だったはずの人間だ。

 「ネル先輩……もう諦めましょう。私達は負けた。夢を見れる時間はもう終わった。連邦生徒会からの多額の借金と膨大な始末書を背負う財政再建・倫理再構築団体になる未来を受け容れるしかないと」

 がれきから一人の少女が出てきた。セミナーのバッジ。早瀬ユウカだろうか?しかしセミナーの役員に対してもネルは一歩も退かなかった。

 「お前はいつもあたしのやることに文句つけんじゃねえか。やれ請求を抑えろだのやれ過激な行動は慎めだのうるせえんだよ!これだってお前はもう現実的じゃねえとかそういう理由を付けてるんだろ?ほんとくだらねえよ、そういうの」

 ネルは私達の方を睨みつけ、そしてミレニアムの面々に背中を向け、私達の前で高らかに宣言した。

 「確かにあたしの成績は悪いかもしれねえけど。それでもあたしはミレニアムが好きだ。大好きだ。全ての学生にとっての科学のユートピアになれる、この学校が好きだ!」

 「だからあたしは戦う。まだ負けが決まったわけじゃねえんだろ?それならまだやれるってことだよ。ほんの少しでも勝てる可能性があるならあたしは立ち続ける。このあたしの武器だって、タダで捨ててやるかっての!!」

 とんでもない気迫だった。これがミレニアム一の武闘派、美甘ネルの生き様で、思想なのだなと実感した。そのコールサインは「00(ダブルオー)」……

 「約束された勝利」か。

 周りのミレニアムの生徒ももう一度武器を構え始めた。そしてネルは、うずくまるもう一人の魔王に、檄を飛ばした。

 

 「おら行くぞチビ!!あたしらの戦いは、ミレニアムを守る戦いはこれから始まるんだよ!!」

 

 ネルが叫んだ瞬間、アリスはまるで電撃を喰らったかのような勢いでもう一度立ち上がった。

 「そうですね……アリスはチビメイド様に助けられてばかりです。おかげでやっと理解出来ました……アリスはここにいます。アリスが手伝います。そして、ミレニアムへの侵入者たちは……」

 「ミレニアムを守る魔王である、アリスが破壊します!!!!!!!!」

 風向きが変わってしまったような気がした。これがミレニアムの力なのだろうか。しかし、だからといってもはや退くこともできないだろう。私達だって、魔王の世界征服を止めるのが正義なんだ。

 故郷の仲間のために報酬が必要な小鳥遊ホシノ。予期されるアポカリプスから学校を守りたい聖園ミカ。そしてヌーディストの楽園の構築を夢見る浦和ハナコ。みな目的は違う。でもミレニアムの魔王の野望を止めたいという想いは一緒だ!!

 アリスがレールガンを携え近づく。あれに当たればひとたまりもないはずだ。そこにホシノが立つ。

 「いやあ~……これじゃあどっちが悪役なんだかわからないねえ。おじさん、ちょーっとだけお金が欲しくてはるばるここまで来たのに……いいねえ、ものすごく手厚く歓迎されちゃった。だったらおじさんも、本気出すよ」

 そしてホシノは胸元からサバイバルナイフを取り出し、なんと自らの髪を切った!!

 「このおじさん……いや、小鳥遊ホシノは簡単には倒れないから。どこからでもかかって来ていいよ」

 こうして、ミレニアムの生徒と、私達魔王討伐隊の最後の戦いが始まった。お互いに一歩も退かない、一進一退の攻防。私もこのような白兵戦がごとき戦闘はほとんど経験してこなかった。

 高威力の砲撃を連打するアリス。敵の大将に直接近接戦闘を仕掛けるネル。それに対して完璧に対応するホシノ。そして、その剛腕でひたすら敵を粉砕していくミカ……

 しかし、私はその戦闘には加勢しなかった。もとより指揮官であったこともそうだが、何よりこれは生徒達自身のための、大人の介入する余地などない問題であると認識したためだった。そして、対岸の魔王も、同じ対応を取った。

 そしてこの光景は私の眼にはとても輝いたものに映った。この闘争には未来があった。可能性があった。そして何より、揺るぎのない信念のぶつかり合いは、生徒たちにとって最高の教育を生んでいたという認識を持っていた。魔王にとっても同じことだろう。私はここまで、十代の少女たちが、未来をその手につかみ取るために、必死になっている姿を見たことがなかった。だからこそ、その光景はまるで……美しい星のように見えたのだ!!

 

ハッピー ラッキー こんにちはベイビー

良い子でいたい そりゃつまらない

 

 遠い昔の詩が脳裏を過った。机の前でいい子にしてるだけでは得られない価値がある。思いっ切り間違えていい。あとのことは考えなくていい。ただそこに、信念さえあればそれでいい。

 そして私の眼下に広がった生徒達の紡ぐ世界に向けて、私は口ずさむ。

 「ハッピー ラッキー こんにちはベイビー ソー スイート」

努力‼未来‼A BEAUTIFUL STAR‼

努力‼未来‼A BEAUTIFEL STAR‼

努力‼未来‼A BEAUTIFUL STAR‼

 

 それが、彼女達の青春の物語ブルーアーカイブ

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ええ~っ!?先生、あんなにお金貰ったのに全部アビドスとトリニティとミレニアムに匿名寄付しちゃったの~!?」

 「ああ、アビドス6割トリニティ3割ミレニアム1割だからお前のとこが多い」

 「おじさんもそうだけど実質ボランティアじゃん!先生そういうの嫌いだって言ってたし、研究のためのお金が貰えるから行ったんじゃないの!?」

 「まあそうは言ったな……だが今回は私がお前の先生でいるために大切なことを学んだから。もうそれでいいんだよ」

 全てが落ち着いてから私の口座には4630万クレジットという大金が入金されていた。研究費20年分という超高額の報酬を得たが、ホシノと折半した後残った2315万もすべて寄付に使ってしまった。おかげでアビドスと、今回の「戦争」で壊滅状態のミレニアムの復興は一段と進み、それにトリニティのクソみたいな公共施設が増えたことだろう。

 ちなみに、魔王は今もミレニアムにいる。戦線が膠着状態になったのち、ミレニアムの生徒会長である調月リオとホシノ、ミカの三者間で合意が結ばれて終戦となった。連邦生徒会は魔王の解職を要求したものの、ミレニアムの生徒が一丸となって猛反対し、おまけに我々もそれを止めなかったことで今もミレニアムの総長の座にいる。

 だから魔王の世界征服の野望は阻止されたのではなく、「延期になった」のである。だがこの通り我々の元に報酬は渡ったし、その時期が来たらまた我々が止めに行けばいいだけの話である。そういうわけで私は相変わらずの薄給貧乏生活。だが今日は待ちに待ったラーメン屋の移転開業日だ。

 「ううっ、お客さんはそんなに辛くて苦しい思いをしてたんですねぇ……大盛りサービスさせてください!!」

 こんな話をしていたら今日から新しく入ったバイトの耳に入り、大盛りにさせろと言われてしまった。勝手な行動のため、店長にも軽く叱られていたが、ホシノが「えぇ~?いいじゃんいいじゃん!」とねだったおかげで店長も折れてしまった。

 バイトは自らを槌永ヒヨリと名乗った。最近K.D.U.まで引っ越してきたという。なんだか指名手配犯にそういう名前の生徒がいたような気もするが……まあ気にしないでおこう。私達の話を聞くなり大盛りをサービスしてきたあたり、とてもいい人そうだ。

 「美味しい!やっぱりこの味だよね!!」

 ホシノは3か月ぶりのこの店のラーメンをとても喜んでいた。シャーレからは遠くなってしまったが、私もこの味が好きだ。やっと、日常が戻ってきたと感じる。それも今までになかった、未来に対する確かな希望を持てている。

 「……ホシノ。このラーメンを食べたら、また明日から悪党どもをシバくクソみたいな毎日だ。だからそれまでは、ここでこの味を噛み締めよう」

 ……別に私はそういう、ハッピーで埋め尽くされた未来に遭遇しなくとも、もうよいのだが。それでも私の横でラーメンを頬張る、私のただ一人の生徒は、そういう未来と巡りあって欲しい。そう思い、私は残ったスープを飲み干そうと器に手をかけた……

 ゴオオオオオオオオッ!!

 ……ああっ、まただ!またAI喰いをしてる輩がいる!!ミレニアムからの帰り際に無限に見かけたがやはり不快なものだ。軒先にもデカデカとAI喰い禁止と書いてあった。奴らは自分の権利ばかり主張する。自分さえよければそれでいいという。私はそういう人間が一番嫌いだ!

 「あのお客さん、AI喰いは……」

 「なんや!?むしろこれ認めへんの方が時代遅れやろがい!」

 そしてお約束がごとく店主と口論だ。ヒヨリも困っている。こうなっては仕方がない。この店の未来と、私の未来、そして、ホシノの味玉のためだ!

 「行くぞ、ホシノ」

 「うんっ!!」

 

 私達のAIとの戦いは、これからも続くのだった……

*1:「メントメシザコヤ」で検索しよう

*2:AIの権利を人間同等に持ち上げようとする愚かな人間の総称。AIツイフェミとも呼ばれるが、こちらの呼び方はほぼ用いられていない

*3:画像提供:K.D.U.有志のP氏

*4:画像中に現れた少女はアリスではなくKeyなのでは?と考えた読者も多かろう。しかし、後の取り調べで発覚したことではあるが魔王はアリスとKeyの人格融合に成功。この現象はセミナー及び特異現象捜査部の調査報告書では"ApocaL-1pS"と表現されている

*5:いや、それはお前がわざわざ私とホシノのいる牢に来たからじゃないのか……?