『「くっ.....!!」
「言え!吐いちまえ!!早く言うんだ!!!さもないと....」
俺は今拷問を受けている。手足は椅子に座らせた状態で縛り上げられ身動きが取れない。鳴り響く捕縛者の怒号、窓から入り込む凍てつく冬風、口元にこすりつけられる続ける寿司、かれこれだんまりを続けて1垓年*1が経った。もう精神は限界にきている。押し付けている寿司のネタは生サーモン、でも俺は炙りサーモン派だ。まさに、鮭"ハラス"メントである。本当に、なんでこんなことになってしまったんだ。
「さもないと、本当にこの寿司を、口にねじ込んでやる!!!!」
それはあまりにも突然のことであった。俺の家はちくわ農家*2で、家の田んぼで今の季節はちくわを育てている。米とちくわの二毛作*3でちょうど今の時期はちくわを刈り取っては町に売りに行く毎日である。いつも通りちくわを売りに家を出たわけだが、その日は隣町の四暗刻単騎町でメガネ速割り選手権が開催されるということで、観戦する以外の選択肢がなかった。まっすぐ帰らずに選手権の観戦に寄り道したのだ。しかしその道中、やかんを被った風変わりな女性にぶつかってしまったのだ。
「いてて...あの、すいません、お怪我はないですか?」
「....えよ...」
「....?あの、大丈夫で...」
「......って言えよ。」
「えっと....今なんておっしゃりま」
「10回ピザって言えよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「ひぃっ!!」
突然の恫喝に全身が震え上がる。間もなく踵を返しその場から離れようとするが、後ろを向いた瞬間何か鈍いものが頭に当たる感覚が響き渡り、そのままその場に倒れた。そして気づいたら全身拘束されており今に至る。あのとき寄り道せずに帰っていれば...そんな後悔が時折脳裏をよぎる。しかし起こってしまったことを悔いてばかりではどうしようもない、どうにかしてこの状況を打破せねば。
第一、俺は生まれつきパ行が発音できない。つまり、"ピザ"が発音できないのだ。まさにこの長い年月口を開かなかった理由がここにある。俺の名前が"ピカソ"であることはあまりにも不運であるし、これが理由で親のラインとX*4とFacebookはブロックしている。しかしかつてこれへの対抗策として思いついた手があった。それは"小声で似た単語を言う"だ。"ピザ"に似た単語として"キザ"があるため、これを実行した。
「キザキザキザキザキザキザキザキザキザキザ(10dB*5 )」
「あ?聞こえねーよなあ!!もっと大きな声で言いやがれ!!!そんなものがまかり通ると思ったらなあ!!思ったらなあ!!!!!!!大大大大大大大間間間間間間違違違違違違違違違違いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいだからな!!!!!!!」
だめであった。そう、この手を思いついた時にはもう既に7187京1871兆8718億7187万1871年経っており、既にジェジェ・ジェージェッッッジェー(捕縛者の名前。自ら名乗ったわけではないが、彼女の立ち振る舞いから予測できたのだ)の耳は相当老化が進んでしまっていた。90億dBくらいの音量で言わねばそもそも言葉を発したことすら耳で感知するのは難しいだろう。
第二に、仮にピザと10回言えることに成功したとしよう。かつてIQ60と恐れられた俺は既にこれを言い切ったときの相手の返答を予想できている。ずばり、
"じゃあ、ここは?"
だ。これを言わせてはいけない。イヨーノビタ語で"ชะโฮ!"という単語があるが、これが"じゃあここは"と非常によく似た発音、そしてその内容はあの有名な大悪魔"大悪魔"を召喚する呪文である。"大悪魔"の出現は自身に確定で30ダメージを被るため、1垓年を経て老衰に老衰を重ねた俺たちはそれが姿を現せば須臾にして消し炭と化すであろう。俺の人生の終焉はそのような形にはしたくない。エウルアが復刻したら必ず引くと決めた俺が今まで数々のガチャをスルーしてきた。これまでに原神*6のバージョンはVer.2951270912674741353.4まできたが一度たりとも復刻することはなかった。ここでくたばってしまっては何のためにガチャ禁をしてきたのか、何のためにちくわを栽培して稼いできたのか、己の人生の行動意義に関して問いただす必要が出てくる。自分の行動の正当性を保つためにも、ここで死んではならないという強い意志が俺にはあった。だから、正直に"ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ"と答えてはならぬのだ。
だが、ピザと言わなければ?また第一の手みたいに違う単語を発することは認可されないだろう。かといってこのままだんまりを続けてはいずれ老衰でこのまま互いにくたばってしまう。ここはピザを10回唱えたうえで、億が一の確率で"じゃあ、ここは?"という返答が来ないことを祈るしかないのだろうか...そもそもが絶体絶命の状況、俺はこのいい意味で返答が想定外になることをかけることにした。
時は流れ、第二のキリストが没し、暦は西暦から東歴へ、東歴933273807625607787486年८७१月ゑ日、決意から毎日パ行が言えるように鍛錬を積んだ。押さえつけられた生サーモン寿司はもはやシャリのシの部分すら残っているか怪しい状態にまで経年劣化している(金属製のため)。そしてついに時が訪れる。。。
「いい加減答えろ!!!!!!!!お前、生サーモンを嫌がるということは、、、、、、嫌がるということは!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!どうせなあ、そういうやつは、、えんがわも決まって苦手なんだよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!(超ultra-hyper-delux-whiteoutmxmド偏見)」
そして3年かけて奴が握り続けたえんがわ寿司を耳にねじ込まれようとした瞬間、俺はそれはそれは大きな口を開けて、言った。
「ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
しばらくの沈黙ののち、彼女は頭にかぶっていたやかんを脱ぎ捨て、その忌々しいやかんの下の面は不気味に笑い始めた。そして自身の顔にコーヒージュースを塗りたくり、プラレールのマヨネーズ和え*7を冷蔵庫から取り出し、膝にそれを向けてついにこういった。
「クックックック.....!!!じゃあ、ここは?w」
おわった。終焉。終焉のClaudia。玩具狂奏曲 -終焉-。きれいさっぱりこの返答を予想してしまっていた自分のIQ60という賢さに畏れおののくより、"大悪魔"がやってくることへの恐れが己を支配する。てか肘じゃねえのかよ。そして間もなく、外からガタガタと激しい音が近づいてくるのが聞こえてきた。
ドガシャーーーーーーーーンンンンンーーーンーンーーーーンンンン!!!!!!!!!!!!!!
「なっ!!!こ、これは....」
「よくぞ我を喚んだ。我すなわち"大悪魔"を喚んだのは貴様だな。喚んだ代償として30ダメージを受けてもらう。フフフ。。。」
自称"大悪魔"は誰がどう見ても地下鉄東西線の車両であった。なぜこんなところに東西線が...?そもそもここは地上...はっ!そうか、地下鉄東西線の通勤ラッシュは日本でも有数の混雑率、寝不足の中早起きして通勤通学するサラリーマンや学生にとっては、さながら、大悪魔...!!!しかし俺はサラリーマンでも学生でもないが...
「東西の暦を見届けし永く生き伸びすぎた者よ、われの裁きの下、この地に永眠するとよい。ワハハ(べべん)。」
あっというまに俺と不気味なやかんの女は東西線に轢かれ、命を絶った。
ーーー
あの大悪魔の出現から3日の月日が経った(月日...?)。外は東西線のみならず三田線、ゆりかもめ、さらには日暮里・舎人ライナーまで蹂躙する始末。世は大悪魔時代を迎え、人々は地下シェルターや頑丈な建物の中で引きこもる生活を余儀なくされた。残された食料もついにちくわだけになった。そしてそのちくわを見て人々は必ず想うのだ。あの人が命を犠牲に育ててくださったちくわだと。このちくわなしにここまでつないだ命はなかったと。実はちくわじゃなくてもよかったのではと。ちくわの穴はやや非効率なのではと。メガネ速割り選手権でこの世のメガネという生物種はすべて絶滅したため近眼のものはそもそもちくわの穴を見ることすらかなわなかった。でも、そんなちくわに感謝してもしきれなかった。今日という日を生きる。これは誰かの犠牲のもとに成り立つ奇跡。そんなことを思いながら人々は残り少ないちくわをかじりながら飢えをしのいだ。
さらに3日後、外がやけに静かになった。大悪魔時代による飢饉で世界の総人口は3人まで減った。勇気を振り絞り地上に上がると、縦横無尽に走り回っていた大悪魔たちは疲れ果ててくたばっていた。そんな大悪魔たちから、小さな植物の芽が芽生えていた(馬から落馬)。はんぺんの芽だ。ここに生の希望を見出すと3人は愚かにもはんぺんの実がなるよりも前に芽を3人で分け合って食べてしまった。おいしかった。そう言い残し世界最期の人類はその場からもう動くことはなかった。
』
この伝説は我々の住む日本の地の裏、地球の地殻の反対側を地面にした位置にある裏日本に伝わる作者不詳の伝説である(過去の地質学では地球の内部構造は中心から内核、外核、マントル、地殻、とする説が通説であったが現在ではご存じの通り厚さ1万km程の地殻より内側は空洞で、外側に住む我々とは完全に別の進化を遂げた文明が存在していたとする説が最有力である)。また、大悪魔は通常召喚される確率は通常はほぼ0%、神域においては3%とされており、この伝説にかかれている"じゃあ、ここは?"を発しても我々人間にとって災厄が降り注ぐことは基本ないとされているため安心されたし。しかしこの伝説は《解剖学実習基礎概論的概念》*8という教養本の学習において大切となる知識のひとつであり、文献としては大変発見しづらいものであるため、こうしてみなの学習の一助となればと思いこのように多くの人の目に入りやすい一サークルの一ブログの記事として紹介させていただいた。